思えば、本の記憶とは、その内容というよりも、自分がどんな状況で──つまり、いつ、どこで、誰と一緒にいるときに、どういう心境で──読んだかによって、大きく変わってくるように思う。旅しながら本を読むと、その旅の記憶が、本の記憶となるように。 例に違…
シナイ山の山頂──。頂上は、別世界が広がっていた。 おそらくムスリムのたちだろうか、蝋燭を灯し、小さな声で歌を歌っている。岩で作られた小さな小屋のまわりにみんなが集まり、毛布をかけあい、その歌を聞きながら、日の出が登ってくるのを空を見つめなが…
夜11時にダハブからシナイ山へ向かう。車で約2時間、小さなマイクロバスで観光客一行を連れて、真っ暗闇の中をガタガタと大きく揺れながら進んでいく。あまりのスピードと揺れ具合に、もし他の車とぶつかったり、道から外れてしまったら、とても助からないの…
カイロの喧騒と交通渋滞をなんとか通り抜け、岩山と砂漠の間をガタガタとバスで走り続けること約8時間。その道中には、いくつもの検問がある。 「Passport!」 銃を持った軍の兵士が道路を見張り、バスが通れば通行を止め、チケットや身分証明書を見せるよう…
みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る― 作者: 川上未映子,村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/04/27 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る なぜ村上春樹だけが、こんなにも個性のある作家と言われているのだろうか…
劇場 作者: 又吉直樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/05/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る どこでもないような場所で、渇ききった排水溝を見ていた。誰かの笑い声がいくつも通り過ぎ、蝉の声が無秩序に重なったり遠ざかったり…
hermitage2017.jp どの国にも文化があり、歴史があり、美術があるように、ロシアにもそれがあるにもかかわらず、西洋のそれが上から覆いかぶさっているようで、よく見えない。もしかすると私だけが見えていないだけかもしれないけれど。 ロシアの歴史を考え…
雪の練習生作者: 多和田葉子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/01メディア: 単行本 クリック: 24回この商品を含むブログ (50件) を見る 「読書をするなら、自分には理解できないかもと思う本を選べ」 という言葉を聴いたことがあるけれど、この本はまさに…
なかなか暮れない夏の夕暮れ作者: 江國香織出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 2017/02/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 海外のサスペンス小説にのめり込んでいる中年男性の小説。 と書いてしまうと何だか渋いような気がしてしま…
どんな絵なのかを言葉で表現し難しい絵だった。でも、とてもよかった。 色も形も構想もマチエールもとてもよかった。 人物画、静物画とあるけれど、最初はマティスに少し似ていると思い、マネのようだという感想を聞き、ピカソのような佇まいの絵もあれば、…
溶ける街 透ける路 作者: 多和田葉子 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社 発売日: 2007/05 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 4回 この商品を含むブログ (30件) を見る 「あ、この作家は当たりだ」と本を開いた瞬間にわかってしまい、思わず閉じてしま…
罪の声作者: 塩田武士出版社/メーカー: 講談社発売日: 2016/08/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (12件) を見る グリコ森永事件をモデルにした小説である。社長の誘拐や、菓子への毒物混入などの重罪を犯したこの事件は、警視庁による重要指定事件と…
「『アンネの日記』に影響を受けて作家になった」と、 小川洋子は言っている。 その小川洋子が、アンネのいたアムステルダムを訪れ、 アンネと関わった人たちに話を聴いたというのが本書。 『アンネの日記」でしか会ったことのなかった人たちが、 実際に現代…
i(アイ)作者: 西加奈子出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2016/11/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見るアイデンティティのアイ、愛情のアイ、虚数という存在しない「i」、私の「I」。移民生まれで、アメリカ人と日本人の裕福な夫婦のもとに…
私は絵が好きだ。日本画西洋画かかわらず。しかし、明治〜昭和の日本人画家の描く洋画は、 西洋絵画(特に印象派)を取り入れたにも関わらず、 どことなく暗く、おどろおどろしいタッチのものが多く、 私はあまり好きではない。 (もちろん好きな画家はいる…
この作品は今後、村上春樹文学論を語るには決して外せない作品になる。面白さや読みやすさはないけれど、 村上春樹史上の最高傑作かどうかは疑問だけれど、 文学作品として、とても異色で、非常に高度な作品であると思う。 読みながら「ああ、いつもの村上春…
『マチネの終わりに』(平野啓一郎、2016年、毎日新聞出版)「人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。 だけど、実際には未来は常に過去を変えているんです。 変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。 過去は、それくらい繊細で、感じや…
『ツバキ文具店』(小川糸)文字の深さがあった。それも、手書きの文字。 主人公の鳩子(ぽっぽちゃん)は、厳しかった祖母から鎌倉の代書屋を引き継ぎ、 「ツバキ文具店」という看板を出して、文房具を売るかたわら、 誰かの代わりに手紙を書く仕事をしてい…
恩田陸『蜂蜜と遠雷』ひたすらに音楽が流れていく小説。 国際ピアノコンクールの予選から本選までが、 息つく間もなく描かれている。 コンクールは1人あたり、10数曲を弾く。 次から次へとクラシック音楽が文章で描かれ、 音となって聴こえるのは、 私が知る…
映画「エベレスト」最近よく山に登る。 それに伴って、本や映画も山に関するものが多くなってきた。 今話題の映画「エベレスト 3D」。 1996年のエベレスト大量遭難事故をもとに描かれた今作は、 極限状況での人間の描き方や、 もはや人間にはどうすることも…
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』 何が異色の小説なのかというと、物語の世界観がわからないまま物語が進む点。 その謎は、主人公たちの成長にあわせて理解できるところだけが、 大人によって意図的に(!)少しずつ明らかになる。 その片鱗を辿りな…
平野啓一郎著 『本の読み方 スロー・リーディングの実践』「本を読む」とはどういうことか。本屋に行けば、速読法の本が溢れている。皆、より多くの本を手にとろうとしている。 それもひとつの読書法であり、否定するつもりない。 だが、本を読むことはだ単…
フランシス・アリス展を観た。 ちょっとはっとした。砂塵を巻き上げる竜巻の中へカメラ片手に突入していく映像。 20分以上はあった。 その部屋に入ると、大きなスクリーンの前に、枕と敷布団が何個も用意されている。 つまり観客に「どうぞ寝ってころがっ…
アントニオ・ロペス展を鑑た。 スペインで活躍中のリアリズム作家。 日本で今流行に極みみある「写実ブーム」だが、いったい写実とは何か?を 問い直す最高の機会を、bunkamuraがつくってくれたと思う。ロペスの作品は決して写真ではない。 確かに画像で鑑る…
「夏目漱石の美術世界展」を鑑た。 @藝大美術館 http://www.tokyo-np.co.jp/event/soseki/outline.html まさに漱石脳内美術館。 「吾輩」の装丁から始まり、 漱石が留学時代に見た ターナー、ロセッティ、 ジョン・エヴァレット・ミレイ、 サルヴァトール・…
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』について ネタバレなし。引用あり。 ストーリーは興味深くて最後まで読ませるだけの力はあったし、 「色彩」を軸に小説を進めつつ、 彼とヒロインとの会話は素晴らしいものであったけれど、 構成に関して…
良い絵があった。「うずくまる」F8号 五百住乙人 「緑だ」と思った。全体が緑がかっている。 真ん中に大きく描かれた女性は横向きで、ひざをかかえてうずくまっている。 その女性と背景も全て淡い緑色。 女性は沈んでいるわけでも考え込んでいるわけでもな…
絵を観るのと、本を読んだり映画を観たりするというのは、 全然違うと思う。絵を観るのは、絵から何かをもらうだけじゃなく、 絵に、自分の何かを刻む感覚に近い。部屋の片隅に飾ってある絵は、 とある洋画家が描いた男女の絵。 冷蔵庫近くに張ってあるカレ…
ロバート・キャパ/ゲルダ・タロー @横浜美術館沢木耕太郎『キャパの十字架』をようやく読み終え、美術館に行けた。ゲルダ。 同じ女性として、ゲルダの生き方は衝撃的だけど、 その激しさが作品にも見てとれた。 26歳で取材中に命を落とし、 以来、キャパの…
2013年春 展覧会まとめ(2) エル・グレコ展さてと。 先輩と後輩の展覧会も観てくれたかね? ラファエロ先輩(ルネサンス)、ルーベンス君展(バロック)。 東京では今、いろんな西洋美術展覧会がおこなわれていて、 私たちのような過去の芸術家からしてみ…