たまに映画、展覧会、音楽など。

島本理生『あなたの呼吸が止まるまで』

「あなたの呼吸が止まるまで」

舞踏家の父を暮らす12歳の少女、野宮朔。夢は、作家になること。
一歩一歩、大人に近づいていく彼女を襲った、突然の暴力。そして、

彼女が選んだたった一つの復讐をかたち。

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どんな話かは、本を読んでみたらわかる。
この本の表紙の意味も、本を読んでみたらわかる。

最近の流行作家は、それぞれが確かに個性的だけれど、
一人の作家が描く話は同じものばかり。
タイトルだけを読んでも話の内容を思い出すことができないことも多い。
文体も設定もその作家の個性があるのに、毎回同じ話だとさすがに活きてこないだけあって、
つまらない話が多い。
ノーベル文学賞をとる、といわれている日本人でさえ、そう。

そんな中でのヒット作だった。
島本理生「あなたの呼吸が止まるまで」。

初めは表紙に魅かれた。
「ナラタージュ」もそうだったように、元々島本理生の作品には裏切りが少ない。
即購入の即読破だった。午前中のバイトのあとでコーヒー屋さんで4時間くらい滞在して、
読みきってしまった。
だって、怖いんだもの、女の子の変化が。

“女への変化”と言ったほうがいいのかもしれない。
主人公のクラスメイトといい、親友といい、父といい、風変わりの人ばかり。
その中で唯一まともの主人公の幸福、寂しさ、悲劇、
憎しみを通り越した復讐心――。

「いつかあなたとの話を書きます。
      たとえ何十年後でも」

(本文より)
二人で公園を抜け、大きな橋の上まで来たとき、
「それじゃあ、また明日な」
田島君は夕暮れに染まった笑顔で手を振り、その透けた茶色い瞳には、しっかりと私の笑顔が映り込んでいました。
「うん、また明日」
私もそう言って、彼に手を振りました。
―中略―
また左手の左指が引きつり始めたので、私は地面に座り込んで、背負っていた学校鞄を下ろしました。
赤い表紙のノートはあれ以来、一度も開いていません。正直、佐倉さんへの気持ち悪さとはべつに、大人のひとの冷静な感想を知るのが怖かったのです。
 広がったスカートの下から逃げ出していく蟻たちを見ながら、私は両手で土を掘り返して、そこにノートを置きました。
ぽっかり空いた穴の中で、ノートは、もう何十年も前からそこにあったようでした。
しばらく迷ってから、私はノートを取り出して学校鞄の中に戻しました。そして再び空になった穴を見下ろしました。
私は、ノートの代わりに、……(続きは本で。)

この現実。この怖さ。こんな静かに気味がわるい小説を書ける、4歳年上の島本理生はすごい。
この小説を生み出した彼女の頭の中がすごい。