たまに映画、展覧会、音楽など。

「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」(国立美術館)04

第二章 印象派


印象派について今更きちんと述べずとも、
この絵を観れば、印象画家の醍醐味は十分に伝わるはず。
この章でご紹介するモネ、ルノワール、カサット。
三人の描く世界をそのまま感じる、それがそのまま印象派の世界だと思うのです。



3.光の層をたどって

今回は、印象派の代表格であるクロード・モネの光の痕跡をたどってみたい。
私が実際に観た順序そのままでお伝えします。


ワシントン・ナショナル・ギャラリー展で出品されていた作品その1
「揺りかご、カミーユと画家の息子ジャン」(1867年)

まさかの室内。光の痕跡がなかった(!?)
ということで、光以外に注意を向ければ、揺りかごの模様に目が吸い寄せられていく。
天井から垂らしたその布は、控え目な青色。
空が静かに舞い降りてきたよう……。
そんな前触れを感じて、次の作品へ。


作品その2
「サン・タドレス」(1867年)

ぽってりとしたタッチの浜辺、
ぽてっとした海の色からはモネらしさを感じられない気がする。
大づかみの構図とこの荒いタッチ。
まるで、海辺の一瞬の風景を捉えようとしている観。
一瞬、それは光を捉えること。


作品その3
「アルジャントゥイユ」(1872年)

そしてこの絵を観たときは、まさに光がふわっ、とキャンパスに灯ったようだった。
木々の間から差し込む陽と、川と空がだんだん近づいていく遠景の境界線。
顔を近づけてみると、道に照らされた光は黄色、オレンジ、白と、多彩。
空が広い。なんて開放的! 地球は静かであたたかいんだな、と。


そして、


「日傘の女性、モネ夫人と息子」(1875年)

息を呑んだ。光が拓いたような感覚だった。
筆の運びが一気に自由に、大胆に、
まるで光のその一瞬を逃さまいとするかのようにリズムよく描かれている。

そして実際に観るとさらに実感できるのだけれど、
風が吹いているのを感じるのだ。これは本当に本当。
夫人の表情、立ち方を観ても風を感じるし、
雲を観ても、風に吹かれて空を横断しているのがわかる。

夫人と息子がこちらを振り返った今、雲が動き、風が通り抜ける。
そして太陽が二人を照らす。
誰もが知っている、あの心地良い一瞬を描いている。
この空の描き方! もう言葉が見つからないくらい美しかった。
この草の描き方! キャンパスに筆をおくように描いて色が混ざらないようにして描いている。
緑、黄色、白、紺、赤……あらゆる色が繊細に配置されていることで、
スカートや傘とは違う、独特の質感が表れている。
きっと寝っ転がれる草地。
私もこの場所に今すぐ飛び込んで、風を感じたい。草の匂いを嗅いでみたい。


モネの作品はこのほかにもまだまだ続いていく。
さらに色彩は明るくなり、輪郭はあいまいになってゆく――。
そうして「ルーアン大聖堂」(1892〜93年)や「睡蓮」(1899年)を描いてゆく。


ほんの数秒で激変するのが光だけれど、刻々と微妙な変化をするのも光。
だけどそこには、光を受けたり、さえぎられたりするように、
「目には見えない光の層」があって、
彼はその光の層の部分までも描こうとしたのかもしれない。
光というものが空から降り注がれているという、そんな層を彼が感じ取っているのだろう。

だからそこには風が舞う。草が立つ。人の心にも光が満ちていく。