たまに映画、展覧会、音楽など。

パリ、ユトリロ、雪

ユトリロの「白」は、うすいブルーグレイで、
その色で表現される雪は、本物のそれよりも雪らしいような気がする。
雪だけではない。
ユトリロの描くパリの街――とりわけ建物の壁や道――は、パリよりもパリらしいと思う。
なかには、パリの街にユトリロが色をつけたのではないか、と思うくらい
絵のほうがパリらしかったりする。

パリらしさとは何か。

たとえば、壁の少し汚れた感じ、雪に少し色がついている感じ。
窓があって(その窓さえも同じ窓はない)、道の先に建物があって、空があって。
私はパリに行ったことはないけれど、パリに降る雪はこうだと分かる(気がする)。
一人ひとりが主人公というよりも街全体が芸術な感じ
ユトリロの絵は人を描いていてもそれが主題ではない)。

ユトリロは日本人が好んでいる画家の一人だという。
このギャラリーは私の勤め先から目と鼻の先。
1967年、新聞社と共に日本で初めてユトリロの展覧会を開き、
日本にこの画家の名を伝えたのは、このギャラリー。
その後、何度か回顧展をここで開いたそうだが、建物全体を囲むほどの行列ができたとか。
今の時代、行列ができる画廊なんて聞いたことがない。

モーリス・ユトリロ(1883−1955)は近代のフランス画家で、
エコールドパリには珍しいフランス人。
アルコール中毒の治療の一環として絵を描き始めたとか、ほとんど独学とか、
なんだか魅力的な画歴。
パリの風景という身近な画因でありながら静謐で詩情のある彼の作品を見ていると、
パリの冬が伝わってくるような気がする。

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今、勤め先でちょうど創っている本(連載本を単行本化する)はフランス留学記で、
私とそう年が違わない青年がパリの美術学校で油絵の勉強をするというもの。
渡航が船という、もう何十年も前の留学話)
その原稿を読んでいると、パリはやっぱり寒いらしい。
でも芸術家がたくさんいたり、美術学校で多様な授業がおこなわれていたり、
音楽コンサートに連れていってもらったり、女の口説き方を教えてもらったり、
美術館へ行ったり、デッサンをしたり、部屋で課題の静物画を描いてみたり。
ああ、ユトリロの見たパリの風景になんだか似ている。
ユトリロはそんな風景はほとんど描くことはなく、
ひたすら建物や教会や道を描いていたのだが、空気が同じという感じ。
パリの空気、文章から見る雪と絵から見る雪が同じだ。

いつかパリに行ってみたいと思う。
ルーブル美術学校で絵画論の勉強をしてみたい。
できれば、パリの冬に。


ユトリロ展@ギャルリーためなが 12月15日まで