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たまに映画、展覧会、音楽など。

「大エルミタージュ展 オールドマスター西洋絵画の巨匠たち」(森アーツセンター・六本木)

hermitage2017.jp

 どの国にも文化があり、歴史があり、美術があるように、ロシアにもそれがあるにもかかわらず、西洋のそれが上から覆いかぶさっているようで、よく見えない。もしかすると私だけが見えていないだけかもしれないけれど。

 ロシアの歴史を考えてみる。長い王朝の時代を経て社会主義が始まり、ドイツと戦い、アメリカと見えない戦争をした。そういったものは顕著であり、たとえば王朝の人々を描いた絵や、レーニングランドという言葉は耳に馴染みがあるけれど、ではロシアで有名な作家の名前を挙げよ、と言われれば、ドフトエフスキーくらいしか浮かばない。あるいはチャイコフスキー。でも彼が活躍した舞台は主にヨーロッパなので、ロシアという国の文化は誰が担い、どのように発展してきたのか、私はあまり知らない。況や、美術の人などとくに。

 そんななか、エルミタージュ美術館展のドキュメンタリー映画が今公開中である。そのドキュメンタリーは、映像美が何より素晴らしい。エルミタージュ美術館の持ちたる美の宝──絵画、彫刻、建築、至るところに散りばめられた芸術品の数々──が、次から次にと映し出されている。しかしそれでは、ただの映像美にすぎない。何より、今回のこのドキュメンタリーの素晴らしさは、ロシアの歴史(それも美術にまつわる戦争や略奪の歴史など)がよくわかるという点にある。作品の収集を始めた女帝エカテリーナ2世、ロマノフ王朝の滅亡の一方で美術品を守り通した人々、第二次世界大戦時の美術品疎開、火事による美術館損壊……、美術品の略奪、そして戦勝国ゆえにベルリンから持ち帰った美術品など、エルミタージュ美術館は今日までの規模になった所以がわかるような、まさに収集と防衛と略奪の歴史が描かれていた。

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 特筆すべきなのは、スターリンが到来し社会主義国となったとき、美術館で働く人々が収監され、強制収容所で労働を強いられたということ。産業化への資金とするために美術作品が実際にアメリカのワシントン・ナショナル・ギャラリーに売られたという(その作品は現在にもアメリカの所有となっている)。学芸員や館長たちまでもが、美術館を追われ、労働を強制された。こんな歴史がほかの国にあるだろうか。

 美術館の歴史というのは、その国の歴史であり、まさに文化そのものでもある。ロシアの美術の歴史はそのまま、ロシア王朝の歴史と、世界大戦へとつながっている。驚きだったのは、ロシア美術そのものがなかったこと。近年おこなわれている展覧会も海外の作家を招致していることが多いようで、自国で育てた画家というのはあまりいないようだ。それよりもそのドキュメンタリー映画からは、いかに作品を収取し、守り、保管し、略奪し、略奪されてきたか──が、伝わってくる。

 展覧会はエルミタージュ美術館から、選りすぐりの巨匠たちの作品が陳列されていて、館内の装飾もまさにロシア皇帝の部屋さながら。子ども用の音声ガイドは女帝エカテリーナ2世がエルミタージュ美術館を案内するふうになっていて、ロシアに行ったかのような気分にさせてくれる。

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