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「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」(国立美術館)02

第一章 印象派以前


モネの「印象・日の出」や「睡蓮」に代表されるような印象派絵画というのは、
そこに到達するまでに様々な変革がおこる。
時は19世紀、パリ。
聖書・神話・歴史がテーマの絵画からの逸脱を図り、
ありのままの自然や現実を描かれるようになる。

たとえば、バルビゾン派の風景画家 ジャン=バティスト・カミーユ・コロー
モルトフォンテーヌの思い出」1864年 

(余談になるけれど、19世紀のフランスを代表する牧歌的田園風景を描く画家だが、
わたしは彼の描く女性像のほうがむしろ名作だと思う。
詳細は過去の展覧会を参照http://d.hatena.ne.jp/puku0427/20080817 )

印象派登場の発端は、市民革命がおこり王侯貴族から市民へ主人公が移り変わり、
型にとらわれない芸術を追求するようになったことから始まる。
柔らかな光を捉えるバルビゾン派、レアリスムが登場し、
色彩・構図の革命がおこり、ついでモネ、ドガ、セザンヌゴッホゴーギャンへと続く。
今回はドービニーとマネの二人に絞って、その変革をたどってみる。


1.空・川・森
シャルル=フランソワ・ドービニー
「オワーズ川の洗濯女たち、ヴァルモンドワ近郊」1865年

早朝の空の微妙な変化をつけた色調、
川べりの清涼な空気、絵具のほどよい厚みで表される木々の茂み、
柔らかな筆致で描き出された風景画。

タイトルにある洗濯女は哀れかな、かすかに描かれているだけで、
絵画の中心をなすのは空、川、木である。
「空・水・森」の三構図を結びつけるのは、この言葉しかしかない。

<反射>。

水は空を反射して水面にそれを映し出し、
朝光は葉を優しく照らして植物を呼び覚ます。
そして森の葉は川の水面ぎりぎりまで垂れ下がり、水の恩恵を受けている。
どれも反射という光に支えられ、見事な三位一体の構図が完成している。

そしてさらに面白いのは、この三位一体を描いている場所。
本来このような風景画を描く場合、川の対岸から描くのが通常である。
しかしこの作品は川の中心から(おそらくアトリエ舟に乗って)描いている。
戸外で絵を描くというスタイルは今後登場する印象派画家たちに受け継がれていく。
三位一体の世界を端から見るのではなく、中心に立って描く。
自然を(特に川辺を)愛し続け、流暢な筆づかいで描き続けた彼の姿勢と、
この構図こそ、印象派の原点ともいえる。