たまに映画、展覧会、音楽など。

2012-01-01から1年間の記事一覧

2012年の終わりに

悲しい哉、 日本人は30人の海外画家を思い浮かべることはできるのに、 日本人画家で30人は答えられない。美術の教科書を見ても、近代の日本人画家として知られているのは、 黒田清輝、浅井忠、青木繁、岸田劉生、……? 近代の洋画家といえば、ゴッホ、ゴーギ…

パリ、ユトリロ、雪

ユトリロの「白」は、うすいブルーグレイで、 その色で表現される雪は、本物のそれよりも雪らしいような気がする。 雪だけではない。 ユトリロの描くパリの街――とりわけ建物の壁や道――は、パリよりもパリらしいと思う。 なかには、パリの街にユトリロが色を…

「リヒテンシュタイン展」(国立新美術館)

きらびやかで豪勢な予感。が、的中の当展。 そもそもリヒテンシュタイン城がこんなにもロマンチックだ。オーストリアとスイスの間にあるこの小さな国(≒小豆島)は、 1719年に独立し、伯爵(現在は国家元首兼)がずっと国を守ってきた。 今も伯爵家が住むこ…

原田マハ『楽園のカンヴァス』

絵画は、 完全に物語を閉じ込めることができると思う。 本や映画は登場人物の趣味なり悩みなり (子どもはいるのかとか、人生に飽き飽きしているとか) を知ることができるけれど、 絵画は描かれている人物が何を考えているのか、 想像をめぐらせることしか…

安倍龍太郎 『等伯』

『等伯』 ーー安土桃山時代の絵師・長谷川等伯の画物語。戦国時代。嵐のような時代。 その時を駆け抜けた絵師の中で、 政(まつり)事と関わらずに 名を残した者がいるだろうか。時代を代表する狩野永徳も 力強い筆致で信長の肖像画を描いたが、 のちに秀吉の…

「シャルダン展」(三菱一号館記念美術館)

シャルダンが生きた18世紀フランスというのは一言で言えば“ロココ” ――雅宴(フェート・ギャラント)――の時代。 浮かんでくるのはフラゴナール、ヴァトー、ラ・トゥール、プーシェ…… 華やかな貴族風俗画、恋愛画が宮殿の壁を飾った画家たち。 フラゴナールの…

語り夜ver.1 『物語に彩りを  第五章』 

物語に彩りを 第五章 71年間、塗り重ねられた色 長い話になりました。おや、もうすっかり日が暮れてしまった。 一段とまた冷え込みましたな。 ピートが暖炉の前で眠り込んでしまいましたね。 御老人、せっかく来ていただいたのに、こちらが話してばかりで申…

語り夜ver.1 『物語に彩りを 第四章』

物語に彩りを 第三章 加わった色は暗色か明色か 運命の綻びは数週間後でした。 5月になってすぐ、ドイツ軍がユダヤ人自主退去を発令。 祖父はポーランド人なので問題なかったのですが、 予感は的中してしまいました。 ある昼下がり、めったに鳴らない画廊の…

語り夜ver.1 『物語に彩りを  第二、三章』 

物語に彩りを 第二章 淡く儚い緑色 時刻はそう、その絵が描いているような夕暮れ時でした。 祖父が聖マリア教会の傍を通りかかると、 何かをじっと見つめている10歳ぐらいの少年を目にしました。 靴も服もボロボロ、けれど不思議なオーラを放っていて、 色で…

語り夜ver.1 『物語に彩りを  第一章』 

『物語に彩りを』 はじめに 1940年、そして2011年のポーランドの都市、クラクフ。 クラクフは、ポーランドの京都と呼ばれ、 聖マリア教会、市庁舎、織物取引所、ヴァヴェル城などを中心に 市街地が広がっている。 13世紀に建てられた聖マリア教会からは、毎…