たまに映画、展覧会、音楽など。

2017-01-01から1年間の記事一覧

エジプト記「シナイ山vol.3」

シナイ山の山頂──。頂上は、別世界が広がっていた。 おそらくムスリムのたちだろうか、蝋燭を灯し、小さな声で歌を歌っている。岩で作られた小さな小屋のまわりにみんなが集まり、毛布をかけあい、その歌を聞きながら、日の出が登ってくるのを空を見つめなが…

エジプト記「シナイ山 vol.2」

夜11時にダハブからシナイ山へ向かう。車で約2時間、小さなマイクロバスで観光客一行を連れて、真っ暗闇の中をガタガタと大きく揺れながら進んでいく。あまりのスピードと揺れ具合に、もし他の車とぶつかったり、道から外れてしまったら、とても助からないの…

エジプト記「シナイ山 vol.1」

カイロの喧騒と交通渋滞をなんとか通り抜け、岩山と砂漠の間をガタガタとバスで走り続けること約8時間。その道中には、いくつもの検問がある。 「Passport!」 銃を持った軍の兵士が道路を見張り、バスが通れば通行を止め、チケットや身分証明書を見せるよう…

村上春樹、川上未映子『みみずくは黄昏に飛び立つ』

みみずくは黄昏に飛びたつ―川上未映子訊く/村上春樹語る― 作者: 川上未映子,村上春樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/04/27 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る なぜ村上春樹だけが、こんなにも個性のある作家と言われているのだろうか…

又吉直樹『劇場』

劇場 作者: 又吉直樹 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/05/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る どこでもないような場所で、渇ききった排水溝を見ていた。誰かの笑い声がいくつも通り過ぎ、蝉の声が無秩序に重なったり遠ざかったり…

「大エルミタージュ展 オールドマスター西洋絵画の巨匠たち」(森アーツセンター・六本木)

hermitage2017.jp どの国にも文化があり、歴史があり、美術があるように、ロシアにもそれがあるにもかかわらず、西洋のそれが上から覆いかぶさっているようで、よく見えない。もしかすると私だけが見えていないだけかもしれないけれど。 ロシアの歴史を考え…

多和田葉子『雪の練習生』

雪の練習生作者: 多和田葉子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/01メディア: 単行本 クリック: 24回この商品を含むブログ (50件) を見る 「読書をするなら、自分には理解できないかもと思う本を選べ」 という言葉を聴いたことがあるけれど、この本はまさに…

江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』

なかなか暮れない夏の夕暮れ作者: 江國香織出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 2017/02/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 海外のサスペンス小説にのめり込んでいる中年男性の小説。 と書いてしまうと何だか渋いような気がしてしま…

「エリザベス・ペイトン展:Still life 静/光」(原美術館)

どんな絵なのかを言葉で表現し難しい絵だった。でも、とてもよかった。 色も形も構想もマチエールもとてもよかった。 人物画、静物画とあるけれど、最初はマティスに少し似ていると思い、マネのようだという感想を聞き、ピカソのような佇まいの絵もあれば、…

多和田葉子『溶ける街 透ける路』

溶ける街 透ける路 作者: 多和田葉子 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社 発売日: 2007/05 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 4回 この商品を含むブログ (30件) を見る 「あ、この作家は当たりだ」と本を開いた瞬間にわかってしまい、思わず閉じてしま…

塩田武士『罪の声』

罪の声作者: 塩田武士出版社/メーカー: 講談社発売日: 2016/08/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (12件) を見る グリコ森永事件をモデルにした小説である。社長の誘拐や、菓子への毒物混入などの重罪を犯したこの事件は、警視庁による重要指定事件と…

小川洋子『アンネ・フランクの記憶』

「『アンネの日記』に影響を受けて作家になった」と、 小川洋子は言っている。 その小川洋子が、アンネのいたアムステルダムを訪れ、 アンネと関わった人たちに話を聴いたというのが本書。 『アンネの日記」でしか会ったことのなかった人たちが、 実際に現代…

西加奈子『i』

i(アイ)作者: 西加奈子出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2016/11/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見るアイデンティティのアイ、愛情のアイ、虚数という存在しない「i」、私の「I」。移民生まれで、アメリカ人と日本人の裕福な夫婦のもとに…

原田マハ『太陽の棘』

私は絵が好きだ。日本画西洋画かかわらず。しかし、明治〜昭和の日本人画家の描く洋画は、 西洋絵画(特に印象派)を取り入れたにも関わらず、 どことなく暗く、おどろおどろしいタッチのものが多く、 私はあまり好きではない。 (もちろん好きな画家はいる…

村上春樹『騎士団長殺し』

この作品は今後、村上春樹文学論を語るには決して外せない作品になる。面白さや読みやすさはないけれど、 村上春樹史上の最高傑作かどうかは疑問だけれど、 文学作品として、とても異色で、非常に高度な作品であると思う。 読みながら「ああ、いつもの村上春…

平野啓一郎 『マチネの終わりに』

『マチネの終わりに』(平野啓一郎、2016年、毎日新聞出版)「人は変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。 だけど、実際には未来は常に過去を変えているんです。 変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。 過去は、それくらい繊細で、感じや…

小川糸 『ツバキ文具店』

『ツバキ文具店』(小川糸)文字の深さがあった。それも、手書きの文字。 主人公の鳩子(ぽっぽちゃん)は、厳しかった祖母から鎌倉の代書屋を引き継ぎ、 「ツバキ文具店」という看板を出して、文房具を売るかたわら、 誰かの代わりに手紙を書く仕事をしてい…

恩田陸『蜂蜜と遠雷』

恩田陸『蜂蜜と遠雷』ひたすらに音楽が流れていく小説。 国際ピアノコンクールの予選から本選までが、 息つく間もなく描かれている。 コンクールは1人あたり、10数曲を弾く。 次から次へとクラシック音楽が文章で描かれ、 音となって聴こえるのは、 私が知る…