小川洋子『アンネ・フランクの記憶』
「『アンネの日記』に影響を受けて作家になった」と、
小川洋子は言っている。
アンネと関わった人たちに話を聴いたというのが本書。
『アンネの日記」でしか会ったことのなかった人たちが、
実際に現代も生きている人として登場してくる。
ミープ・ヒース(アンネたちを匿ってくれた女性)や、
幼かったアンネの友達ヨーピーなど。
ただ大きく違うのは、彼女らは、
アンネと生きただけでなく、その後の時代も生きている。
それはつまり、戦争の悲しみ・苦しみを背負っているだけでなく、
アンネが有名になって以降の、彼女たちが背負ってきた
「アンネを知っている人たち」として生きている重み。
オランダ人、ドイツ人の人々も苦しみ、
生きることに必死だったことが、小川洋子のインタビューから知った。
ところで、なぜ日本で『アンネの日記」をここまで読まれ、
浸透してきたのだろうか。
海外では、戦争本というよりもむしろ
“思春期の子どもたちの読む本”としての認識のほうが強いらしい。
日本人はどうなのだろうか。
本来、加害者である日本人は、原爆の悲劇から、
どこか被害者の体裁を抜け出せていないような気がしてしまう。
そしてアンネは“被害者の象徴”として捉えられ、
共感を生んでいるのではないだろうか。
では果たして、『アンネの日記』は、
反戦の象徴であり、人種差別反対を訴える教科書なのだろうか。
そうした意味ではなくむしろ、
純粋に読むことを楽しみ、結果作家を志すことを決める。
シンボル化してしまった『アンネの日記』ではなく、
『アンネの日記』の本当の良さを、
小川洋子は当書で旅の記録に重ねながら語っていく。
私自身、『アンネの日記』を読んだのは、かれこれ20年以上前だが、
この本を読むことで、『アンネの日記』の価値を改めて知った。
歴史に名が残っている本の良さを正確に伝えられる本というのは、
得てして良い本だと、私は思う。